1 はじめに

本市は市街地を囲む緑豊かな山々や、「水の都」にふさわしい幾筋もの川、瀬戸内の海と島々といった天与の自然を有しています。広島城の築城以来400年余り、この地に暮らす人々は、恵まれた自然を生かしながら、魅力と風格のある都市広島を築いてきました。

山、川、海の豊かな自然、平和記念公園、平和大通り、河岸緑地などの今日の都市広島を特徴づける空間、中四国地方の中枢都市としてにぎわいのある都心、のどかな田園風景。これら広島の誇る多彩な景観をより魅力的なものとして、次の世代に引き継ぐため、本市は、昭和56年(1981年)に「広島市都市美計画」を策定し、景観協議制度を通じた民間建築物の美観の向上や、道路、公園等、景観に配慮した公共施設の整備など、市民・企業等と行政が協力して都市美づくりに取り組み、着実に成果をあげてきました。

 

広島市都市美計画 昭和56年(1981年)策定



 

北から南(瀬戸内海)方向を望む



 

2 景観協議制度

都市美計画を策定中であった昭和55年(1980年)、中区、特に平和大通りを中心に、その後の景観行政の大きな柱となる「都市美協議制度」の試行を開始し、昭和59年(1984年)から各区において本格実施へと移行しました。戦後建てられた建築物が更新時期を迎える時期をとらえて、全市域の5階建て以上の建築物(10mを超える沿道の角地にあっては、3階建て以上の建築物)について協議を求めることにより、美しい都市景観の形成に向けた取組の推進を図ることにしました。

昭和58年(1983年)、本市を代表する通りである平和大通りを、広幅員の道路と豊かな緑を生かして、より風格のある通りにしていくため「平和大通り沿道建築物等美観形成要綱」を制定し、建築物や屋外広告物等の配置、形態、色彩や素材などについて、市民や事業者の方々と景観協議を進めていくことにしました。都市美協議制度が主に建築物を対象にしているのに対し、この要綱では、沿道の景観全般を良くするため、協議対象の建築物の階数を問わず、また、屋外広告物や日よけテント、さらには、その他景観に影響を与えるおそれのある行為を協議の対象にしています。特に、屋外広告物についてはビル名称等の自己看板のみを設置可能とし、屋上への表示・設置によらず壁面を利用するなど建築物と調和する一体的なデザインとなるようお願いしています。

 

都市美協議制度 昭和55年(1980年)から



 

平和大通り沿道



 

続いて、平成元年(1989年)、本市の景観上の特徴である川と海に着目し、「リバーフロント建築物等美観形成協議制度」を制定しました。太田川デルタを流れる6本の川、河岸から眺めた建築物の向こうに見える山並み、この豊かな広島の自然を生かすこととし、川や海、山との調和を図り、戦後の都市化の中で急速に薄れていった川とのつながりを取り戻すことをねらいとしています。特に建築物のスカイラインと山並みとの調和を図り、川に顔を向けた建築デザインを誘導しています。

 

リバーフロント



 

さらに、平成7年(1995年)、本市の西部丘陵に建設が進む西風新都における宅地開発、公共施設及び建築物等の建設に関して必要な事項を定めることにより、良好な都市景観の形成を図ることを目的として「西風新都アーバンデザイン推進要綱」を制定しました。これにより、快適で魅力的な都市環境づくりを推進しています。

 

西風新都



 

同じく平成7年(1995年)には、原爆ドームを世界遺産に推薦するにあたり、原爆ドーム周辺の景観保護が求められたことから「原爆ドーム及び平和記念公園周辺建築物等美観形成要綱」を制定しました。

原爆ドーム及び平和記念公園周辺地区については、世界遺産の周辺にふさわしい品格ある雰囲気と、都市的なにぎわいとのバランスがとれた都市空間を形成することとし、特に、バッファーゾーンにおいては、建築物の形態や色彩などのデザインの規制だけでなく、高さについても一定の配慮が必要であるとの観点から、平成18年(2006年)には、この要綱を改正し建築物の高さについても協議対象としました。

バッファーゾーン

世界遺産である原爆ドームの周囲の良好な環境を確保するため、平和記念公園及びその周辺の区域を対象に設定した緩衝地帯

 

原爆ドーム及び平和記念公園周辺



 

また、平成19年(2007年)、名勝に指定されている縮景園周辺について「縮景園周辺建築物等美観形成要綱」を制定しました。縮景園は、昭和15年(1940年)に名勝に指定された本市を代表する由緒ある庭園であり、都心にありながら落ち着きのある静寂なたたずまいが保持されています。こうした縮景園のたたずまいと調和した良好な景観の形成をより一層進めるため、高さの基準を含む要綱を制定したものです。

このように、本市では、これらの各種景観協議制度に基づき、建築物や屋外広告物などついてそれぞれの地区の特性を踏まえた適正な景観誘導に取り組んでいます。

 

3 顕彰制度

平成6年(1994年)に、「広島市優秀建築物表彰」、「広島市優秀緑化施設表彰」、「広島市優秀宅地開発表彰」を統合し、「ひろしま街づくりデザイン賞」を創設しました。

これは、魅力ある街づくりに対する市民意識の高揚を図ることを目的に、本市の豊かな自然、街並み又は環境への配慮がなされ、良好な景観の形成に貢献すると認められる物件又は行為を表彰するものです。当初は、「建築物・工作物部門」、「緑化部門」、「街並み部門」、「サイン・アート部門」、「まちづくり活動部門」の5部門でしたが、平成13年(2001年)には、「水都ひろしま部門」(平成15年(2003年)「水の都ひろしま部門」に名称変更)及び「奨励賞」を、平成17年(2005年)には「夜景づくり部門」を、平成19年(2007年)には、「環境にやさしい街づくり部門」及び「建材の再利用部門(特別表彰)」(平成21年(2009年)部門の対象拡大に伴い「建築物の3R(リデュース・リユース・リサイクル)部門」に名称変更)を、平成21年(2009年)には、「個人住宅部門」及び「街づくり提案部門」を新たに加えました。

主な受賞物件としては、NTTクレド基町ビル(平成6年(1994年))、A.CITYヒルズ&タワー(平成7年(1995年))、矢野南小学校(平成10年(1998年))、なぎさ公園小学校(平成16年(2004年))などが挙げられます。

 

平成16年(2004年)ひろしま街づくりデザイン賞 大賞受賞(建築物・工作物部門) なぎさ公園小学校



 

4 公共施設のデザイン

昭和55年(1980年)に、公民館や各区スポーツセンター、区民文化センターなど本市が建築する建築物のデザインについて、開かれた公共建築、良好な景観形成の観点から検討を加え、広島らしい個性的で魅力ある街づくりに寄与することを目的として「広島市建築物デザイン審査会」を設置しました。(平成14年(2002年)「広島市公共建築デザイン検討会」に名称変更)

また、昭和62年(1987年)に広島らしい優れたサイン整備を目的として「広島市総合サイン計画」を策定し、道路、公園、広場などの公共空間に設置される公共サインについて、デザイン上の一定のルールを示しました。

さらに、平成2年(1990年)には、道路空間について望ましいデザインのあり方とその方法を明確にすることにより、きめ細やかな空間づくりを行うことを目的として「道路景観づくりの手引」を策定し、舗装整備などの技術的な事項をはじめ、色彩や植栽のデザインなどの方針を整理しました。

 

平成7年(1995年)には、被爆50周年を記念して「ひろしま2045ピース&クリエイト」(平成13年(2001年)に「ひろしま2045:平和と創造のまち」に名称変更)制度を創設しています。この制度は、被爆100周年にあたる2045年のひろしまに向け、優れたデザインの社会資本を整備していこうとするものであり、個性的で魅力ある都市景観の創出を目的に、計画段階から建築、土木、ランドスケープ等のデザイン力に優れた設計者を選定し、広島の都市景観の形成において重要と認められる建築物等を対象に実施するものです。

本制度を活用して整備された施設は、多くの人が見学等で訪れており、また公共建築賞を受賞するなど質の高いデザインや機能性が高く評価され、都市景観の形成に一定の成果が得られているものと考えています。

これまで対象事業として11事業13件を指定しており、矢野南小学校(平成10年(1998年))、基町高等学校(平成12年(2000年))、西消防署(平成12年(2000年))、中工場(平成16年(2004年))、安佐南区総合福祉センター(平成20年(2008年))など、9件が事業完成または業務完了しています。

 



ひろしま2045:平和と創造のまち 対象事業 平成12年(2000年)完成 基町高等学校



 

5 屋外広告物

屋外広告物についての主な取組としては、屋外広告物の表示・設置に対する許可、違法なはり紙、立看板等の除却、屋外広告業者の資質向上のための講習会の実施などがあります。さらに、平成18年(2006年)から屋外広告業の登録制を導入し屋外広告物規制の実効性を強化しています。

 

平成15年(2003年)からは、ボランティア除却(広島市路上違反広告物除却推進員制度 )を実施しています。これは、市長が認定した路上違反広告物除却推進団体に加入している市民の方を推進員に任命し、「はり紙」、「はり札」、「立看板」等の違反広告物の除却権限の一部を委任することにより、推進員がボランティアで違反広告物の除却活動を行うことができるようにしたものです。市民と協働して路上違反広告物の除却を行っており、大きな成果を挙げています。

 

路上違反広告物除却推進員による活動風景



 

また、同年から市内を走る路線バス・路面電車のラッピング広告については、ラッピング広告の特例許可に係るデザイン協議制度を導入しており、本市の魅力ある景観の一つとなるよう取り組んでいます。

市内を走る路線バス・路面電車の車体のラッピング広告は、広告デザイン、車体デザイン、背景となる街の景観デザインなど、関連するデザイン分野が多く、また、平面から立体、空間へと2次元、3次元で係わる新分野であり、広告デザイナーにとっては、今までにない幅の広い総合的視野が必要になります。

そこで、広島ならではの質の高い車体広告のデザインとするため、平成15年(2003年)から、ラッピング広告の特例許可に際し、広告主及びデザイナーと広告デザインに関する専門家との協議の場(デザインに関する事前協議)を設けました。ラッピング広告デザインに景観へのマイナス面がある場合はそれをできるだけ排除し、プラス方向へ修正していただくなどの取組を基本姿勢とした協議形式による審査を行い、本市の魅力ある景観の一つとなるよう取り組んでいます。

 



ラッピング広告デザインの協議事例



 

6 景観誘導の充実に向けた取組

このように、本市では「広島市都市美計画」に基づき、景観協議制度を通じた民間建築物の美観の向上や、景観に配慮した道路、公園等の公共施設の整備など、市民・事業者と行政が協力して都市美づくりに取り組み、着実に成果をあげてきました。

こうした中、平成16年(2004年)に景観法が施行されたことに伴い、当法に基づく条例委任事項を規定するとともに、良好な景観の形成に関する本市独自の取組を推進するため、平成18年(2006年)に広島市景観条例を制定しました。

平成20年(2008年)2月には、この条例に基づき、本市の良好な景観の形成を総合的かつ計画的に推進するための「広島市景観形成基本計画」を策定しています。現在、広島市景観計画の策定に取り組んでおり、本市の良好な景観の形成に向けて景観誘導のより一層の充実を図りたいと考えています。

 

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